水に浮かぶこころ

英国在住アーティストが綴る不思議なドキュメンタリーストーリー

殴られて10針縫って大切な物を盗まれる④

2度あることは3度ある

Artwork by Satoshi Dáte



前回の続き>

路上で殴られ10針縫って、大切な物を盗まれる③

 

今までの出来事がすべてこの時の事の前兆であったとは思わなかった。

以前にも述べたようにすべてはパターン化されている。

自分の行動ですべてを巻き起こしているのだ。

 

悪いことも良いことも、前兆なしに起きることはないと言っていい。

 

大晦日僕は盗まれたものがマーケットに売り出されていないか、東ロンドンのマーケットへ行く。

何も考えずにぼくはBethnal Greenまわりの遠回りのバスに乗ってしまう。 乗ってからしばらくして、まっすぐにLiverpool street stationまで行くバスに乗らなかったのだ。

 

携帯のマップのおかげかそのせいで、目的地を調べずに歩いてしまう現代人だが、僕は目的地がわかっていても適当な手段でバスや乗り物に乗ってしまうことがある。

 

バスを2回ほど乗り換えないといけない。

 

まあいい、その間瞑想でもしよう。と思って。 バスに揺られながら瞑想をする。

2回目の乗り換え地でバスは大通りでなくて、小さい通りで停まる。

 

切り裂きジャックで有名なホワイト・チャペルの地域だ。

 

僕はメイン通りでないところで降ろされるのを少し不快に思い、子供が大きな声で何かを叫んでいるのを聞きながら外へ降りる。

 

忘れ物がないか確認して、大通りへと向かう。

 

右手に友達が運営していた学校のビルがあり、そこで僕がファッションを教えていたことを思い出す。 未だにこの辺りは美しくない。学生のころ住んでいたエリアだ。

 

この地域に戻るのは久しぶりだなと。思いながら横に明らかに盗んだ自転車を売っている輩とそれを買おうとしてる人たちがいた。

 

ちょうど友達がこの日に盗品の自転車を別の場所で買いに行こうと(盗品をあえて買いに行くのではなく、盗品の可能性があると思われるものを買いに)していたところだった。

 

僕も盗まれて間もなく、その光景をみてほんの少し怒りがこみあげていたと思う。 

 

そして10%は興味本位で、10%は嘲るように、僕はこの場面を写真で撮ろうかと思った。

 

だけれど、そこの雰囲気は明らかに、「危ない」 雰囲気だった。 気というのは感じるものだ。 そしてそこで写真を撮ったら嫌がるだろう人がいることも明らかだった。

 

それなのに僕はたちどまり、ふりむき、携帯をとりだして写真を撮ったのだ。

 

携帯をとって写真を撮ろうとした瞬間にすでに

 

「OI!!」  英語でもおい!は同じ。

と言われ、指を刺され、一人こちらに向かってきた。

 

何人かも同じようになにか言っていたような気がする。

 

携帯が危ないと思ったのですぐさまコートのポケットの中に携帯を入れる。

写真を撮った瞬間、思いっきり見られたなと思い、大通りに向かったが…

 

ここからはたぶん2分くらいの出来事かと思う。

 

この時僕は完全に自分が武道を8年くらいしているのを忘れていた。

 

呼びかけられて僕はびくっとした。

 

さて、ここでどういった行動をすることが賢明か。

 

猛ダッシュで逃げるのが賢明である。

 

なぜなら、もうすでに、「危険な香り」が十分に漂っていたからだ。

 

自分でも常に

 

「直感でなにか感じたらそれに従う」

 

と言い聞かせていた。

 

なのに僕はなにを思ったか振り返った。 

頭のなかには猛ダッシュで逃げるという選択はそもそもなくて、立ち去るか、留まるかしかなかった。

 

しかし立ち去ったら、後ろからどつかれるか殴られるかされると危険を感じたのもあった。

 

怒鳴られてイラついた自分と、逃げるという事が弱虫と考える自分と、話したい事があるなら聞こうじゃないかという自分が僕の体を振り向かせ、男を待ち構えた。

 

数人やってくるかと思ったが一人だった。

 

この時点でなにも準備はできていなかった。

 

彼はさほど背が高くなく、ラフな黒づくめの服の中に怒りをあらわにした目が僕の方へ向かってくる。

 

これほど怒った人間が僕に向かったことは初めてかもしれない。

 

この瞬間でも危険を感じたが、自分が武道をしているということをまだ思い出していない。

 

早朝ではないが瞑想をしていたこともあり、ぼーっとしていた。

ぼーっとしていたからこそ、特に考えもせずに写真をとり、逃げずに振り向いたのだ(と思う)。

 

振り向いて喧嘩をしたいとは全然思っていなかった。そんな選択肢は僕にはない。喧嘩というのは普通に殴り合いなりどつきあい。するなら武道の技を使う選択肢はある

 

そして彼は

 

「写真何撮ったんだ!」というようなことを叫びながら、僕の右肩を小突いた。

 

今思えばここで肩どりの合気道の技が使えた。 武道を実践で試す絶好のチャンスだった。

 

しかし彼の動きはとてもはやく感じた。何しろモードが瞑想モードで武道モードになってない。 オリーブオイルの瓶がわれた時のように、ショックを受けていたのかもしれない。

 

続く