水に浮かぶこころ

英国在住アーティストが綴る不思議なドキュメンタリーストーリー

殴られて10針縫って大切な物を盗まれる⑤

僕は喧嘩を売っていた



前回の続き>

路上で殴られ10針縫って、大切な物を盗まれる④

 

殴りかかった相手は見た感じプロではないと思う(ボクシングとかしてる人という意味で、いやしていたかもしれないけど、そんなお金があれば自転車なんか売らないだろう)。

 

僕が稽古している武道場では怒り狂った人が襲い掛かることはない。 だからそういう訓練は道場ではされていない。 その場のネガティブな張り詰めた非常に悪い気と彼の怒りには圧倒された。 そこで無意識に感じたのは、とにかく

 

「彼の怒りを鎮める事」

 

だった。

 

肩をどつかれた時に振り向いて逃げることも可能だった。 普段誰かが攻撃してきたら懐に入って顎にあてみをすること、と心掛けていたが、

 

武道をはじめる前の昔の自分しかそこにはいなかった。

 

***

 

敵が攻めてくるような事件は僕の人生でほとんど起きていない。

 

知り合いに理由なしに殴られたり、女性なのに滅多打ちにされたり、ロンドンで危険な話をときどき聞くが、僕はまわりに見えていないのか、一度もそういう目にあったことがない。 

 

東ロンドンに住んでいた時に、チンピラと目が合い

 

「お前何見てんだよ」 (日本の不良みたいだ)

 

と言われたが、 仲間であろう横にいるよく僕が挨拶する大きな男に

 

「What’s the matter with you?」 「何言ってんだおまえ!」

 

といわれ、男は引き下がった。

 

ちょっと危険な目に合った記憶はそれくらいだ。

 

あとは僕は関係していないがサッカーで有名なトッテナムの住宅地でチンピラたちが1対2くらいで争っているのをみた。

 

そのときの強張った、闇な空気と言ったら忘れられない。ひとりがトンカチをもって相手を殴ろうとしていた。 人気がなかったけれどあたりがシーンと死の恐怖が感じる空気で冷たくなっていた。

 

でっかいハンマーではないけれど、あんなもので殴られたひとたまりもない。

幸いけが人はなく、全員どこかへ散らばったが。 あの時は本当に固まった。

 

もっと過去の話だと

昔、僕は目が鋭かったので、よくにらめつけてると思われたことがあった。

 

十代の時に全然荒れている高校でもないのに、 あぶなっかしくて有名な同学年生がいた。

 

その方に「何がんたれてんだよ」といわれて、ほっぺたをぺしぺしされた。

 

そのときも何が起きてるのかわからず、理解できなかったが、頭の回転がもう少しはやかったら、喧嘩ぱやかった僕はそのまま彼を階段に蹴落とすところだった。

 

怒りというものは誰にもある。

 

心の中にひそめている。 理性や悟りが働いて、それを前に出さない。

 

そうその内なる怒りなりなんなり、いい意味では闘争心、そういったものがこみ上げていれば、相手以上の気迫があれば、僕は準備を整えることがすぐにできただろう。

***

 

今回もこの冷たい、張り詰めた空気がやってきた。

危険な雰囲気というのはすぐに感じるものだ。

 

腰はおとさず、丹田になにも力が入ってない。体は軽くなっていた。

 

普段家にいるときでも、外に出かけるときでもできるだけ腰を落としてアンテナをきかせて構えていたが完全に隙をつかれた。

 

最初の一発は顔面だったかと思う。ほんとうに頭蓋骨がミシっというような感じがする。

まるで漫画のようだ。

 

おもいっきり自分の顔を間違ってぶつけたときのように

 

嫌な感触を感じた。いやそれ以上に彼のネガティブな感情があったせいか、自分で頭をまちがってぶつけた時とはなにか違う感じがした。 怒りも一緒に受け止める感じだ。

 

オリーブオイルを割ったときのように、僕のリュックが盗まれた時のように、一瞬何が起きているかわからなかった。

 

そう。まさか殴ってくるとは思っていなかったのだと思う。

 

彼の表情はなにも変わらず、彼がやっていることは間違っていないという正当性も感じられた。

 

そこでまた頭の片隅には「わたしが悪いことをしてしまった」

と今度は彼が「良いことをしていて」 自分が殴られないといけないのではないかと

ほんの少し思っていたかもしれない。

 

正直こうやって分析するけれど、はっきりわからない。いろんなことが頭の中で交差してた。

 

彼への同情心さえもあったと思う。

 

世界が凍り付いて、自分自身も凍り付く。

 

肩を落として、やわらかく、衝撃を食らったら自然に吸収するなど、武道で教わったすべてにたいして反して体を動かしていた(ようは止まってて木の棒と化してた)

 

「殴られた方が良い」

と彼が落ち着くと思い、殴られることに決めた。

 

ぼーっとした目で(たぶん)「What’s the problem」 「何か問題か?」

と僕は言ったくらいでほとんど僕は彼の怒り狂った目をずっとみつめていた。

 

よけることも出来ただろうし手でガードすることもできただろう。

僕はポケットに手を入れたまま

ただでくの坊のようにたたずんでいたのだ。

 

「なるほど、なぐられるとはこういう事か」と冷静な自分がいるなかで

1回目2回目と続くと

「ん?ちょっとこれはやばいぞ」 と危険信号を感じた。

 

このまま殴られ続ければ倒れるかもしれない、もしくは仲間たちがやってきて

馬乗りになって殴られ続けるかもしれない。

 

なんかこういうことあったなー

 

と遠い記憶を探っている自分がいた。

 

彼らの友人か、客がなにやら僕らに叫んでる。

 

僕はこの時周りにいる彼らが全員敵であり、へたしたら、全員やってくると思ったけれど、普通に考えたらとめるものだ。 殴るということは今では、いや昔でも犯罪で、ましてや、学校や家庭、職場でもちょっとこづいただけでも犯罪者になる時代だ。

 

と、いま調べたら、人を傷つけた場合5年の懲役だそうだ。

懲役についてもいろいろと僕は疑問や意見があるが、たしかに僕はいままでだれも殴りたいと思ったことがないくらいだから、殴るということは5年ほどの重い懲役に値するなと思う。

 

他の人たちは止めようとしていたような気がする。

 

普通に考えたら、向こうが悪い、例え僕が反撃して彼を殴ろうが、蹴ろうが、抑え込もうが、正当性はこちらにある。 写真を撮ったことが人権侵害かもしれないが、そこまで言うなら消せばそれで済む。

 

消してくれと頼みに来たのかと思ったら、まさか殴ってくるとは。 すでに殴ってきているので、殴り返しても何も問題がなかった。

 

ロンドンではときどき小競り合いがあり喧嘩をみるが、 すぐに誰かが止めるときもあるが、大体はみんな巻き込まれたくないから何もしない。 日本ではかなりの確率でだれも何もしない。

 

それにしても一瞬の出来事だったのでとめることは彼らにはできなかった。

 

彼がこぶしを振り上げていたかどうかもあまり記憶にない。たぶん相当よけられるほどの余裕のあるパンチだったと思う。

2日前に起きたことなのに記憶がないとはなんたることか。

 

顔すらぼんやりとしか覚えていない。

 

殺人事件で相手の容疑者を記憶によって目撃者が判断するのだってそんな簡単でないのがよくわかった。 写真を見れば思い出すが。

 

僕は何度か顔をなぐられ、ご丁寧に眼鏡をねらってくれなかった。

ビデオゲームのように殴られた瞬間まっすぐみれず、顔は空の方向を向いたり、地面の方に向いた。 お構えなしに僕は後ずさりもせず、彼の目を見続けた。

 

そして彼はなぜか殴るのをやめて、また何か叫びながら持ち場に戻った。

 

僕はそのとき血だらけになっていたのだが、たぶん彼はそれをみて恐くなったか、やりすぎたと思ったのかと我に返ったからだと思う。

 

道の向こう側の群れの中の背の高い男が「だいじょうぶか?」

 

と僕にむかって大声を発する。

 

僕は「大丈夫だ」と言って振り返り、すべてが終わったと思い、歩く。

 

群れの中からお前は大丈夫か?という言葉が聞けるとはおもってもいなかった。

向かってきた瞬間僕は全員を敵に回したと思ったからだ。

 

アドレナリンがまだでていて、興奮が収まらない。

頭がふらふらする。

 

ベールをかぶったイスラム系の女性が「だいじょうぶ?」

ときいてきた

「ああ大丈夫だ」と僕が言う。

 

この話でどれだけどういう状況だったか伝わるだろうか?

「なんだ殴られただけか!よかったじゃん」という人もいるだろうし。

「とんでもないトラウマになったんではないの?」

などいろいろ感想を持つ人がいるだろうけど、

 

これはあの場にいないとなかなかわからない。

 

思えばかなり本気で殴られた。

 

ボクシングを思い出したが、あれはグローブがついている。グローブがついてても衝撃はある、しかし拳はかなりの凶器だ、 殴る側だってかなり痛いはずだ。

骨と骨がぶつかり合うのだから。

 

そして僕はそれを防御なしで本気にサンドバックのように殴られた。

 

あとで思い出したけれど、殴られたことはこれで人生で2回目だと思う。 人の気持ちがわからず、思いやりのなかった自分は知り合いになぜ彼女に振られたかを知りたく、厚い本であたまをポンと軽くたたいた瞬間相手は、きれて、殴りかかってきた。 

 

頭を沢山殴られたが特にひどいけがにはならなかった。

 

殴るときもある程度理性が働くものである。

 

しかしいくら怒ったとしても僕はいちども相手を殴りたいと思ったことはない。 何かしら彼らに心理的な原因があるのだろうと思う。

 

続く>なぜこうなったか、分析をしてみます。