つぎつぎと彼氏を変えるAnna
デートアプリがあった時代ではないのに、台湾人のAnnaはどこからともなく彼氏を連れてくる。
彼女がなんども新しい彼氏を連れてきた記憶があるけれどそれは錯覚で、このイギリス人は始めて連れてきた人だ。
台湾人だからか礼儀正しく、ぼくらにも紹介したいようだった。
しかしこれから、発覚するのだが、ありとあらゆる僕の知り合いや周りの男性が彼女のターゲットにされていく。 とっても寂しがりやで、常に誰かを愛していないと(?)だめなようだ。
前の彼氏はよくしらなかったけれど彼女は彼氏ができたことで、はしゃいでいた。 その後おもってもいない意外な近くの人と付き合っていたのでこの人以降は秘密の恋愛になる。 なぜ秘密主義だったのか?
それはつねに誰かを狙っているからか。 僕も狙われていたのか。 狙われるといったら失礼ないいかただけど。 愛に飢えているのは目に見えていた。
Vincentは時々家にやってきた。
最初の印象は銀行員かビジネスマンか大きなコートが似合う典型的なイギリス人紳士というかんじだった。
僕はそのとき自分の住んでいる家がぼろやであることも気づかなかったけれど、こんな汚いところに人をよんでいいのだろうか?とはうすうす感じていた。
一度彼はとてもドラマチックに、大げさに振舞ったときがあった。 雨の日に彼はやってきて、酔っ払っている。
「彼女は他の男がいるんだ!」
と、荒唐無稽なことを言い出すと思ったら僕らに愚痴を語り始める。
Annaが浮気なんかするわけないよ、と僕らフラットメートたちは彼をなだめる。
ワイングラスを片手に彼はフランス語で
「voila…」
と 何か語り終わったあとに両手を広げてフランス人気取りに言うのだった。
それがおかしくて、笑いそうだった。 あまりにも馬鹿らしくて、呆れてしまった。
Voilaは何かを披露するときになどに「ほら」(発音が日本語と似てますね)というときに使う。
彼は挙句の果てに、雨の中へ地上階のドア越しに
「もう帰ってやる!彼女とは二度と会わない!」
といって、ドアをばたんとしめて、去っていった。
Annaは何と家にいて、昼寝をしていた(夜だったけど)。
僕らはAnnaがしたの階に下りていくのを見守ると、ずぶぬれになって変えれないでいるVincentがどうしたらいいかわからず立ち竦んでいた。
Annaはおじいさんを介護するかのように、何も言わない彼を僕らの2階へと連れて行き、きたないくらいに厚く鮮やかなオレンジに塗られたドアをとおり、彼女の部屋へと消えていった。
イギリス人の友達が殆どいないので、白人の知り合いがやっと出来てわくわくはしたが、
こんな知り合いがいてもな、、、なんだかなという気持ちで僕らは顔を見合わせて自分達の部屋へと戻った。
ドラマチックなドラマを雨の夜にみることができた。
今日もおしまい。