水に浮かぶこころ

英国在住アーティストが綴る不思議なドキュメンタリーストーリー

有名人にサインをもらってはいけない。

3人にもサインをもらってしまう。

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トイレにいくとロニー・ウッドがいた。テレビでしか見た事がない彼が目の前にいるのも不思議なものである。

  

私は男なので小便器へ向う。(いつになったらこの男性的なものはなくなるのであろうか、うんざりする)

 

僕は同じトイレの前で立って、彼は横にいる。

 

そして情けない私は、何か話しかける。 

 

トイレの後だったかそれから暫くしてだか覚えていないが、彼からもサインをもらう。

日本人と理解したか、日本語で「ロニー」とも書かれた。

 

これは皆が同意するとはおもえないけど、好きな芸能人や有名人やアーティストと近づきたかったら

 

「サインは絶対もらってはいけない」

 

なぜならそれでファンと友人の線引きが行われるのだから。

 

そんな有名人やアーティストに友達になれるわけないじゃないかと、あなたは言うかもしれない。

 

でもこの先、サインをもらう事はこのときの教訓を得て一度もない。

 

そのおかげか、有名人とも仲良くなれるようになっていった。

けれど頭の中では「この人は有名人」という感覚がないし、なかったから、もしくはないふりが出来たから近づけたのかと思う。

 

そう、だからキースとロンにとっては僕は何千万人ものファンの一人でしかなくなったわけだ。

 

私がそんなこんな最初に勇気を出して話しかけてしまったせいで、

いつのまにか、チャーリーの演奏どころか、キースとロンにサインをもらいたい列がくりひろげられてしまった。

 

これには堪らなかったのか、二人はコンサート途中で出て行ってしまった。

僕はずいぶん悪いことをしてしまったなと後悔した。

 

コンサートが終わると、部屋は静かになった。

 

いつまでたってもいなくならない、彼のファンや僕は店員が不機嫌そうに、

「もうおしまいですよ、店が閉まるので出て行ってください」

と言ってくる。

 

僕はまたあほうにもチャーリーのサインももらおうとする。

 

彼にまた僕は何か話しかける。

 

「Pardon?」 (何といいましたか?)

 

と僕にギョロっした目でサインを書いたあとに顔を上げる瞬間に見つめてきた。

 

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僕はそのとき少しぞっとした。

冷たい雰囲気でいかにも英国紳士という感じがした。

 

彼の内側から来るものか、彼の疲れか、ただ外見的なものなのかわからなかったけど、僕はいい印象を持たなかった。

 

僕らは外に出る。

 

ファンが外で待っていた。

 

家族で来てる人もいて、小学校6年生くらいの女の子がじっとチャーリーを見てるのが印象的だった。

 

チャーリーがワゴンの中に入り、ささっと行ってしまうと、みんなはしょんぼりしたような顔で空虚となった道をみつめていた。

 

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ファンはなんとなく、この寂しさを共用したいとばかり、お互い顔をうかがいながら喋りかける。 

 

どうやら皆次の日のコンサートも来るようだった。 

 

遠くの国にやってきて嘘みたいな出会いがあったけれど、結局は彼らは彼らの住む世界に消えていくのが何となくむなしかった。

 

かといって僕に何かがあるわけでもなく、無力な自分にただ情けないと感じた。

 

もう春も終わろうとしているのに夜はとても寒かった。