水に浮かぶこころ

英国在住アーティストが綴る不思議なドキュメンタリーストーリー

運命の人たち

東アジアの白人と日本人と白人

Artwork by Satoshi Dáte

最近仲良くなった東アジア系の白人女性のお話をします。

姿かたちが美しい女性で、僕が話をしようとしていたところで彼女の方からばばばばっとはなしてきて、すぐに仲良くなった。

 

なにかしら通じるものを彼女も感じたのか。

 

どこかで会ったような感じの女性だ。

 

日本人の様な、ドイツ人の様な、東南アジアの血が混ざっているような。

 

ぼくらはサドラーズウェルズというコンテンポラリーダンスの会場の公演を観に行く。 ダンスを見るのは飽きないので楽しいが、作品はまあまあであった。

 

彼女はダンサーだからか、すごいクリティカルに評価していた。

 

Angel駅からぼくらは寒い中ひたすら歩く。 12月のことだ。

 

いかにも。というパブはいやなようで、雰囲気のある場所にいきたそうである。

 

「あそこは?」

 

と僕がいっても、あまりハッピーそうな顔はしない。

 

結局僕らは彼女のおすすめのパブに行く。たぶん2キロはあるかされた。

 

「ここであの人と別れ話したのよね、あんなに苦しい思いをしたのは生涯で一度かも」

 

待ってましたと思うように僕が好きな恋愛の話になる。

 

彼女はいまパートナーもいて子供もいる。 「結婚している」とも「夫がいる」ともいわない。 だから結婚しているのかどうかはわからない。

 

あえて縛られたくないからそういう表現なのか。

 

彼女はドイツ製の重い自転車に鍵をかけながら、その男性について話す。

 

「あんなに愛し合っていたのに、いきなり別れをここで告げられたのよ。ずっと泣いてた」

 

僕が

「理由は?」

 

「理由なんてないのよ、彼が勝手に急に決めた。君とは将来をみれないって」

彼女は僕に当然聞いてもらえると思っているかのようにたんたんとはなす。

 

僕らは騒がしいが雰囲気のあるパブに入る。

奥に席をとって座る。

 

はじめて彼女と外出したが、彼女の存在は遠いようで近かった。

 

二人ともドリンクを手に取ると、僕がいろいろと質問し始めた。

 

「その人ともう一度会ったら?」

とか

「いまのパートナーとはどうなの?」

など。

 

今の彼とはすでに恋愛関係は終わっているようだ。 なんでその人と一緒になったかはいまだに聞いていないが、子供がいることもあって、まだ一緒にいるのだろう。

 

彼女は日本に仕事でよく日本にでかける。 そういうわけで僕と彼女は話題が絶えない。

 

僕はてっきり先ほど話した別れた彼が「運命の人」なのかと思ったが。ところがほかにも男性があらわれた。

 

アメリカ系の日本人だそうだ。

 

「彼と出会うといつも、倒れそうになる」

 

といってドラマティックに手の甲をおでこにあてて、後ろに倒れるようなしぐさをする。

 

そしてそれがお互い感じるようだ。 でも彼には彼女がいて、彼は思い切った行動にとれないようだった。

 

とても興味深い話であったが、その日はそこでバイバイした。

 

近くにワインバーがあってという話になり、今度はそこに行くことになる。

 

というより彼女は僕の承諾を得ずにどんどんと勝手に決めていくのだ。さすがに東アジアの血があるだけある。

 

後日大して飲めない僕はワインバーに彼女とでかける。

 

そして案の定その日本人の彼の話になる。

 

その彼の彼女は日本人で、そのふたりも恋愛感情はなくなっているようだ。 僕の友達とその彼とは何もないのかと思ったら。会うたびに彼の方からキスをするらしい。

 

ぼくは

「なんだ」と思った。はっきりに何もなくて、彼女がアタックしているだけかと思った。

彼のほうからアプローチしてきたらしい。

 

ところが彼はミックスなのに、日本人的なところがあって

「君にはパートナーがいて子供がいる。僕にはパートナーがいる」

というらしい。

 

このパターンを何度見たことか。

 

僕らがワインバーから出て別れを告げるときに。

 

彼女は彼がなにもしないことにいら立ちを表した。

 

そして彼女が去年彼と会ったときに言った言葉を彼に伝える様に僕の目をじっとみつめて、感情的になる。

 

「人生は一度きりしかないのよ? なぜそれに気づかないの?」

 

と目に涙を浮かべながら僕に伝える。

 

僕は彼女の眼をじっとみつめて、その気持ちが僕の体を通して彼に伝わっていく気がした。

 

そして僕もその言葉を僕の誰かに伝えたいと思った。

 

一瞬世界が止まり、北ロンドンの寒い風が熱くなっているこころを冷ましていった。

 

「そうだ、ぼくらの人生はひとつしかない。この人生はリハーサルじゃないんだ」

と僕は頭の中で思った。

 

僕は彼女とハグをして別れる。

 

日本ではこんなことありえないのかもしれない? 文化の違いなんてどうでもいいではないか。イギリスだったらどうだこうだなんて。

 

浮気は絶対だめ、と日本では豪語されているが、恋愛関係がおわっているのはすでに別れている事と一緒である。

 

彼女のようにいろいろな事情で別れらないことだってある。 

 

またある意味で二人はそういったコンフォートゾーンから抜け出せないからこそ一緒になれないのだと思う。

 

不思議なことに二人がシングルで会ったら何の問題もないのかもしれない。

 

ただ僕はこうした見解がある。

 

彼らが今の状態でシングルでこの二人が出会うことはないのだ。 今は。

 

なぜなら彼らはいま言い訳をして一緒になれないために過去にそういった「完全に愛せないけど心地よい」だれかと一緒になったのだ。

 

そしてそれが情なのかなんなのか彼らにしかわからないが、それのせいで、抜け出せない。

 

これは多くの人がそうである。

 

そして日本はたてまえや抑圧やいろいろな理由でだれかとお付き合いしたり、結婚したり、子供を産んだりする。

 

僕らの真実はひとつである。

 

そんなに何個もないのだ。

 

自分自身がひとりであるからこそ、真実は一つなのだ。

 

だからこそ自分を見出さないといけない、自分をもう一つ上のレベルへとあげなくてはいけない。でなければ、本当の幸せを得ることは不可能なのだ。

 

東京に帰ったら彼に逢ってみたいと思う。