切り裂きジャックのいた地域で女性に大声で怒鳴られた
Choの話の前にMinについて話す。
僕らはあまり近くなかった。
恋人と一緒に住んでいて、僕が男性という事もあったのか、なにか距離を感じた。
Choの部屋で普通の会話をしてるときだった、クラシック音楽のことについて話していたら、なにが好きか?という話になった。
Minはピアノを練習してきたようで、僕は彼女にいろいろ聞きたくなったのだ。僕はBach(バッハ)が好きだ、といったが、彼女はバッハを否定した。 彼女は確か、モーツァルトが好きだ、と言っていたと思う。 僕は喧嘩をしたわけでもなく、否定するわけでもなく、モーツァルトがあまり好きでないという率直な感想を彼女に伝えた。 僕はクラシックのトレーニングもしてないし、曲名もしらないし、精通してるわけではない。 ただ僕の感想を言ったまでだが。
急に彼女は大声で
「あなたなんかになにがわかるの! 私はこれまであなたよりもクラシックを勉強してきたのよ!!!」
と顔を真っ赤にして叫ばれた。
僕は口を大きく開けてびっくりした。
5秒位したら、彼女が納まったようすだ。
隣にいたChoが
「なんでそんなことで大声を出すのか俺にはわからん」
と首を振りながら、下を向いていた。
Choの言うとおりだ。
Minは少し恥ずかしくなってそのあともごもご言い訳を言っていた。
ここではじめて
「韓国人の女性はいや」
とボストンであった韓国人男性に言われたことを思い出した。
「すぐ切れるし、強いし、恐いからね」
と。 体が小さな、優しそうな音楽家が僕に伝えたのを思い出した。
僕のそのときの韓国人のイメージは眼が切れ長で綺麗で、やさしいイメージだったので
全然彼の言った意味がわからなかった。
僕がボストンでなかよくなった、美しい韓国人チェリストもとても素敵な人だった。
そしていま
「なるほど」
こういうことか、と思った。
もちろん日本人女性も沢山なヒステリーな人がいる。
韓国で多いのはやはり、それだけ女性に社会的抑圧があるからだろうと、今になれば納得できる。
子供だった僕はただ「韓国人女性は恐い」
と差別的に信じてしまったのだ。
けれど、そのあとも、Minとは仲良かったし、韓国人女性の友達も増えていったのだった。
久しぶりに女性の叫び声を聞いて新鮮であった。