チェロと写真
イギリス留学の最初の滞在先だったヒガシさんの家。
このもの静かなヒガシさんについて少し話したい。
母の知り合いの息子さんで、お父さんはチェロ弾きだ。 とてもあがり症だそうで、すごく演奏がうまいが本番だと能力をはっきできないようだ。
僕がお父さんの家にお邪魔したとき、ヨーロッパのクラシックカーで迎えに来てくれて、家も西洋風でとても素敵だった。 彼のダイニングには目新しいヨーロッパのものばかりで、使い方などをおばさま達の前でデモンストレーションしてくれた。
僕が泊まっているヒガシさんはお父さんの次男で、イタリア系イギリス人と結婚してイギリスに長く住んでいる。
本業は報道カメラマンで、DIYが得意で僕が滞在していた時、ずっと家の工事を一人でしていた。
僕が彼の仕事部屋(リビング)に入った時に彼の昔の写真をみた。
スーツを着て、チェロを演奏している。
「チェロは弾くんですね」
「うん...」
としずかに言った。 あまり感情を表さない人だ。
次男の彼はなにからなにまで父親そっくりであった。家のことにこだわり、クラシックカーを持ち、チェロを演奏する。 まるで双子の兄弟である。
父親の望むもう一人の自分を彼が演じているようにもみえた。
海外に生活して、イギリス人の奥さんをもらい。 DIYをしながら仕事をする。
僕もイギリスに永住することができれば、彼のように仕事を持ち、家を持ち、こんな生活をするのだろうか。
彼とはしっくりと気が合ったわけではなかったので、あまり想像しずらかった。