チャーリー・ワッツのライブ。
十代の頃にイギリスロックが好きだった。今でも好きだけど。
やはりイギリスに来たからにはいろいろ見なくてはと思った。 海外から日本にどんな人気のないバンドもきてくれたけど。こっちは安いし。もっと頻繁にやってるに違いないとワクワクしながら思った。
どこで調べたか記憶にないけれど、どんなコンサートでも買える、チケット屋に時々行っては、A5の小さい紙にプリントされたリストを取りにいった。Oxford Circus駅の近くにあり、とても狭いところだ。いつも人だかりが多いので、ささっと行って、紙だけとりに行く。
まだ自分が「アジア人」である意識がどうしても抜けない。どこへいっても見下されているようで、言葉につまる。
今思うと、だからか。と思う。
なにかというと、ときどきえらそーな日本人に会う。
必要以上にかっこつけてる日本人に会う。
あれはそういったはずかしさや自信のなさの反発なのだなと思う。
後に中学の同級生がイギリスに住んでいることを知り、ただそれだけで、仲良くもないのに家に招いてしまったが、喋り方も態度も大きすぎて、フラットメートのイタリア人の前で恥をかいたのだった。
大きな体の女性や男性の鼻の穴の下を潜り抜けて、興奮して僕はそのリストを落ち着いた場所でチェックするのだ。
鉛筆で行きたいコンサートに丸をつけていく。 やってることは中学のときと変らない。ロックオタク少年だ。
ローリング・ストーンズは中学のときから好きだった。 なのでメンバーの名前は皆知ってる。
僕はドラマーのチャーリーのジャズライブがあることをそのリストから知り、すぐに買うことにした。
彼はもともとジャズがやりたかったのだけれど、ストーンズに恋に落ちて、メンバーに加わった。
個人的にはすばらしいドラマーとはいえないけれど、個性が強い曲や歌やメロディーがあるバンドはあれでよいのだなとおもう。
コンサートというのも息抜きになる。中学のときにロックを聴いたりコンサートに行ったりするのも平凡な日常から抜け出したかったに違いない。不良になるようなものなのか。 大人たちのなかに混ざってライブの音楽を聴くときの「生きている」気持ちはなににも代えられなかった。
当日になり、コンサート会場に行く。
ジャズ喫茶だったのでずいぶん近くでみれた。
高級ジャズ喫茶なので、ほんとうなら座って食事をしながら、または飲みながらでないといけない。
僕はお金もなかったので、ずっと立って席があるフリをしてみた。
ウェイトレスがなんども「何か飲まれますか?」と聞いてくるのはうっとおしかった。 欧米では大抵のロックコンサートは前座がいる。 その日も何バンドかいたようなきがした。これはロックでなくジャズではあったけれど。
演奏は特に面白いものではなかった印象だ。ジャズだけれど、どちらかというとビッグバンドな雰囲気で、ジャズソロもほとんどというか、なかった。
生演奏は心地がよいので僕はただじっと聴いていた。 なにかのきっかけで、そこにいる風来坊な男性と知り合いになった。
彼はすごく上から目線な口調で話すが、いったいどんな仕事を日本でしているのかなぞであった。
コンサートの途中で、チャーリーがメンバー紹介をしているときに。
「お前はだれなんだよ!」 と大きな声で茶化してきた男性がいた。
ずいぶん失礼な人だなとおもったら。ストーンズのキース・リチャーズだった。
母が大好きなギタリスト。
横にはロニー・ウッドもいた。
イギリスに来ると有名人がこんな近くでみれるのか。と勘違いをした。
だけどこれから多くの憧れた人達と出会うことになるなんて思いもしなかった。