ヒガシさんJrと会う
泊まっているB&Bは船出の基地のように使っていた。朝から夕方まではロンドンの中心をいろいろと歩き回り、帰って寝る。朝がやってきて、ごはんが出てきて、食べて、その日のプランをたてて、外に出る。の繰り返し。7日間ほどだったので、予定はみっちりだった。
この日の夜はチェロのヒガシさんの息子に会う予定だった。
レジェンツストリートという弧を描くように、大きくカーブする通りがセンターにある。高級なお店が沢山あるので、日本でいうと銀座通りのようなものか。
その大通りの近くにロンドンで一番古いパブに招かれた。
グルりとカーブしてカーブしてそのパブにたどり着く。入ると大きな犬がいた。
この犬も数百年前からいるのかな?と本気で思った。
あるくとギシっという木製の床。
奥にはヒガシさんの息子さんヒガシJRとイタリア系イギリス人の奥さんがいる。
お父さんとそっくりだったのですぐにわかった。
僕らは軽く話をした。
奥さんは日本語が分らないようなので、僕は下手な英語で話そうとする。
しかしヒガシさんはひたすら日本語で話すのであった。
「来年、ロンドンに来るならしばらくうちに泊まっていいよ」
と言われた。
暫くとはどの位なのかと思ったが、オファーを遠慮なく受け入れた。
「どんなお仕事をしているんですか?」
と僕が平凡な質問をした。
「カメラマン。報道のカメラマンをしてる。もともとはアートの写真を撮っていたけど、あるきっかけでずっとこれをしてるんだ」
とヒガシJrは答えた。
奥さんは、僕らの会話をただジッとまじめに聞いていた。 椅子にもたれることもなく、まるで一緒に会話をしているように、近すぎず離れすぎず。
つまらなそうな顔もしなければ、興味心身でもなかった。
「英語でしゃべらないのですか?」
と失礼かと思ったが、彼女の事が気になりヒガシJRに提案する。
ヒガシさんは無言で答える。
「...」
僕はどうしたらいいかわからず、そのまま日本語で話続けた。
来年秋に大学に通い始めるときにお世話になる事にした。
奥さんは想像していた(何度も欧米人に会ったことがあるのに)雰囲気と違った。
小柄で日本人のような雰囲気だった。
おとなしそうで、優しい顔をしていた。
日本人の旦那さんだと奥さんも日本人っぽくなるのだろうか?
主人が会話をしている時は黙って聞く。という感じなのだろうか。
お酒を飲めない僕は無理をしてビールを飲みほす。
彼らは弧を描く通りを南に、僕は北に向かい別れを告げた。
それにしてもこのカーブはいったい意味があるのだろうか。
これもまたイギリスのブランディングなのかもしれない。
世界一曲がった高級店がならぶ道。みたいな。
日本もなにか考えたらいい。
円の形でぐるぐる回る道とか
ジグザクの通りとか
ジェットコースターのように道が途中で反転してたり。
そんなの企画してみたい。
今回訪れた、ロンドンで一番歴史のあるパブ。今でもどこにあったか覚えていない。