水に浮かぶこころ

英国在住アーティストが綴る不思議なドキュメンタリーストーリー

そこにとどまる安らぎがあるロンドン

日本ではありえないこと

Artwork by Satoshi Dáte

田舎だったらあるかもしれない。けれどなんだか日本の道や家々の作りでは都心ではこういうことはまずありえないと思う。

合気道の稽古の後、僕は月に一度程度日本人アシスタントや新しい知り合いを合気道の見学に誘う。

 

「合気道みにこない?」という90%の確率で

「行きたい!」となる。

 

しかしながら、僕の先生の合気道は普通の合気道と違う。

瞑想のようでヨガのようで、でも真剣さがあり、厳格さがある。

 

殆どの人が合気道がなんだかわからなくて来る。

 

そしてそのあとパブ(飲み屋のことご存じの通り)にみんなでの飲みに行くのだが、80%くらいのひとが感動して感想をたくさんに行って話してくれる。

 

僕はほとんどゲストを呼ばないかぎり、自分の時間を大切にするために飲みにはいかない。

(飲めないし)

 

飲んだ後には帰り道が同じの先生と自転車で帰るのである。 無言の時もあれば、しゃべりながらゆっくりと帰るときもある。

 

そして彼の家は僕の家路の途中で、たいていは自転車からおりて、彼の家の前で少し立ち話をする。

 

そんなときに、歩道を自転車で走ってくる白髪の中年の方(歩道に自転車を走らせてはいけません。イギリスでは)がキキっとブレーキをひいて、地面に45度目を向けながら、止まるのだった。

 

よく見たら合気道で一緒に稽古しているバイオリン職人のTomであった。

 

先生が冗談交じりに

 

「You are a bit late for class, Tom…」

 

「ちょっと稽古には遅れすぎだと思うよ」

 

と彼に伝える。

 

なんやら楽器のことでこれからどこかに行かなくてはいけないようだった。

 

合気道仲間はまわりにたくさん住んでいて、先生が考えていたコミュニティーを作ろうとしている企てが実現してきている。

 

彼のコミュニティーは道場の外でもちゃんと働いている。 先生の先生も宮沢賢治の影響でそういったものを作ろうとしていたようだ。

 

トムはぼくらに何か言い残して

 

「それでは…」

 

といって闇に消えていった。 躊躇なしに歩道の上に自転車を走らせるのであった。

 

なんだかこういう生活は楽しい。

 

東京でも勿論こういうことはあるだろうけれど、なんか違う。

 

ほわっと感が違うのだ。

 

もっとクローズで、ひとごみやうるささや不安やらで気持ちがふっとばなく。そこに留まる。

 

安らぎが留まる。

 

世界で2番目くらいにビジーで人が多い都市なのに。

 

不思議である。