また偶然の点が現れそうだ
石神井駅の近くにある築100年くらいの木造アパートに訪問する。 そこには1950年代の映画のような光景が浮かび上がる。 美術部の辻先輩は僕を駅で迎える。
まだこんなアパートが日本にあったのかと思うくらいのぼろぼろのアパートに着く。
階段を上る。
辻先輩の後を追う。
壁はボロボロで昔の香りがする。
もしかしたらこれは別の次元でもう元の世界に戻れないのかもしれない。あまりにもシュールである。とちょっと恐く思った。
彼の部屋は引き戸だったかもしれない。 覚えてないが、鍵もなかったような気がする。
家賃は覚えてないけれど4万円以下だったのを記憶する。
中は狭い畳の部屋。
トイレは共同、キッチンも共同。 トイレは50年前から変えていないようなトイレだった。
5人ぐらいの映画制作の仲間たちが集まる。
みんなが紹介し始める。
そこに一人だけちょっと雰囲気が変わった人がいた。
藤井という名前の人だ。
先輩の幼馴染だそうだ。 とても幼馴染のように見えない。 とても礼儀正しくて余裕がうかがえた。
みんなが作った映像を小さいテレビでみせ合った。
そこで映画論をみんなで語り合うのだった。
僕は特に感想も言わず、ただぼーっと体育座りをしていた。
藤井さんだけ最後残り、3人で会話した。
「こいつだよ、紹介したかったのは。」
「ファッションやりたいんだろ。こいつ東京モード行ってたんだぜ」」
と辻先輩がいう。
自分も映像の道に進んだからか、僕がファッションに進み事に大いに賛成で否定もしなかった。
そうすると藤井さんが
「イギリスで勉強するんだね。 僕はもうファッションやめたけど、なにか力になることがあったら聞いてね」
と言ってくれた。
中学の頃、微妙な関係だった辻先輩。 みんなに馬鹿にされ、ぐれて停学になった辻先輩。
彼の親友は真逆な人生を歩んでいる感じがした。
藤井さんの顔はインドネシアにいるようなエキゾチックな顔ではっきりとした大きな目をしていた。 体はしっかりしていて体格が良い好青年だった。