赤い不気味な人
「あなたハンサムだから。あなたにしたわ。」
と。赤く髪をそめた中年のおばさんは電話でいった。
私たちを密会している。これはスパイ作戦。
と大げさに聞こえるが、ぼくは未知の国に足を踏み入れて、てんぱっているところで知らない中国のおばさんと会話するのは頭が爆発するピークに達していた。
両親や家族や友達に助けを求めようとしても、日本に電報が届くのが早くて2,3日。
そして届いたところで彼らが僕に何かをしてくれるわけではないのだ。
大方、送ってくれるのは取り立てのジャガイモ。船便で送って1か月はかかる。
ということでもないが。
気持ち的にはそんな感じである。
電話できるだけましだ。
森鴎外の時代なんて、手紙だけだ。嫌電話は合ったかもしれないけど。こんな公衆電話で国際電話がすぐできる時代ではなかったはず。
ともかくぼくは誰も助けがいなかったのだ。
いるとしたら語学学校の頼りない友達。
「自分で何とかしなくてはいけない」
と僕は思っていた。
「自分で切り開いた道だから。自分でその道を進む」
と僕は思った。
で、この中国人だが。ホストに内緒で新しい家を探していた。だから隠れてこそこそと連絡をしていた。 でもなにか。この人は
怪しい
とは感じていた。
天秤にかけてみる。
自立するか。 それともホストファミリーの美味しくない飯を食べさせられ、門限があって、こき使われて、しばらくいるのか...
どちらにしても一人暮らし、ないしはハウスシェアをしたかったので、遅かれ早かれホストファミリーからは抜け出すつもりだった。
だったら別に今でもいいではないか。と焦りを感じながら思った。
この頃イギリスに着いて5週間ほど経っていた。