心を落ち着かせる夜のリビング
イギリスだって先進国だけど、砂漠の真ん中に落とされた気分だ。友達もいなければ言語も通じない。いや砂漠の方がましかもしれない。だって一人になれるのだから。オアシスを探しに行けばいい。のらラクダをみつければいい。ピラミッドをみつければいい。
ロンドンで2番目に住んだ家はホストファミリーの家。旦那さんがスリランカ系、奥さんがPoland系だった。時々奥さんのおかあさんが家に訪ねに来た。
良くしゃべる人で強いポーランドなまりでときどき聞き取れなかった。
僕がポーランドのアートが大好きだという話をしたら、奥さんと同様僕の好きなアーティストの話をしても知らないようだった。 でも奥さんよりもポーランドと関係が深いためか、反応が良かった。
ときどき彼女はホストの主人と奥さんが夜出かけるとき、子供の面倒を見ていた。
リビングに行くことは禁止され、テレビを見る事も禁止されていたから、彼女が来たときだけ僕は1階のリビングでゆっくりできた。
テレビを英語の勉強のためにみたかったけど、それができず、もどかしかった。
「イギリスのホストファミリーはアメリカのホストファミリーと違うよ」
と聞いていたけど全くそのとおりだった。
部屋をただ与えられ、食事を与えられるだけ。
なぜか草むしりの手伝い、子供の面倒を見たことが何度かあった...
ホストと仲の良い関係ならわかる。けれどなにか利用されている感が否めなかった...
そんなわけで、ホストがいないとき、小さい子供とおばあちゃんだけのときはこころがゆったりした。家じゅうどこでも使えるというわけではないけれど。リビングでゆったりできるのが嬉しかった。
ポーランドの人は戦争の話が好きだ。
話し始めるときに、「Most probably…」といういい方を彼女はいつもしていた。
何を言っているのか殆どわからなかったけど、丁寧に聞いてあげていた。
ある夜彼女がとても眠そうにしていると
「わたしはいいから上に上がって寝なさい」
と言われたけれど、彼女一人にして上に上がるのは気がひけた。
どうやら、おばあちゃんに気にいられたようで、主人がある日
「うち義母が君を探していたよ、あのジェントルマンはどこへいったってね」
とあんまり気にいられていないと思ったので意外だった。