水に浮かぶこころ

英国在住アーティストが綴る不思議なドキュメンタリーストーリー

救急外来の綺麗な女医さんの番号をもらう

現われたのはインド系の美しく細身の女性だった。 

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Artwork by Satoshi Dáte

女医さんをみなれていないのか、この国は女性権が進んでいて、女性のドクターなんて普通なのか、わからなかったけど、あまりにも美しかったので、彼女の腕を疑った。

  

運のいいことに彼女はSurface Surgeonだった(と言う名前のものはなさそうだが、そんなようなことを言ってた気がする)。 皮膚科のことを意味するのか? 

Dermatologyがたぶん正しいが、形成外科か整形外科に近いものかと。

 

「腫瘍ができたのね」

さっと現われて、さっとすわり、自然にふだんしているかのように足を組んで早口ではなす女性。

「はい」

と安心したように話す僕。

「急ぎたいのはわかるけど、こういう腫瘍は下手に切るとどんどん血が出てとまらなくなったりするのよ。だから準備が必要」

彼女は両手のひらを胸のあたりにあて、手はくるりと外側を向いて

「Bleeding(血が出る)」というところをジェスチャーで強調した。

 

おまけに目も大きくひらきながら喋ったので、不気味で日中なのにホラー映画でも見てるような気がした。

 

なるほど。美しい人もここまでおおげさに言われると恐くみえる。

 

僕が大げさに言ってるからそれに対抗してるのだろうか。

そしてそのジェスチャーが何となくイギリス的ではなくインド系なのだろうと思った。

 

彼女の後ろの忙しい人達は映画のバックグラウンドのようだった。左隅にある、空気調整のファンが気になってしょうがなかった。白い服の中には私服がみえる。みんな同じように色とりどりな衣服がみえる。もちろんドレスを着ている人はいなかったけれど、上から白衣をきれば何でもいいようないい加減さが日本と違って感じられた。

 

それにしても新しい発見だらけで毎日が滑稽である。

 

「美しくても表情を気にしないのはさすがにNon Japaneseだな」と僕は思った。

 

自分は「美しい」と願う?思う?感情は明らかにイギリスだと少ない。

 

そこまで「肉体」に固執していないのだろう。 

 

眉間にしわを寄せたり、大きな口をあけたり、

それでもAnti agingのプロダクトが売れるのは不思議なことである。

 

で、血がでるときに凍らせたりもできるらしい。

イギリスの最新技術なのかなと内心疑わしく思った。

 

運の良いことに彼女は2週間後に手術のアポをとってくれた。

 

「どこの出身ですか?」

ときいたら。

「パキスタンよ」

と返す。 流暢な英語だったので、現地で生まれた人だと思った。現地生まれだけれどあえてそう言ったのかも知れない。

 

忙しいのにそんな雑談をして、思わず僕は

 

Portrait描いてもよいですか?」

 

と聞いた。

 

彼女は忙しく背景で動きめく医者や看護師の中に透き通った高い笑い声を一瞬だけ響かせた。

「わたしの? なんで?」

と少し笑みを浮かべて驚いた調子だった。

 

「いや、描きたいからです。」

と特に動揺もなく僕は伝える。

 

なんともありえないことに、彼女は僕に電話番号をくれたのだった。

 

読者に期待を与えてはいけないが、こういうこともありえるロンドンだと思った。

イギリスイギリスと書いてはしまうが、ここはロンドン。 

 

イギリス人も言うようにロンドンはイギリス国ではないので、すべての常識がロンドン=イギリスではないのであしからず。

 

それにしても日本の病院にいって救急外来で女医さんに電話番号をもらえることはまずないだろう。

 

日本で女性に口も聞けなかった僕が、なぜこんなにも大胆になったのかわからない。

 

こうして、僕は手術日をショートカットし、美しいパキスタンの女性の電話番号を頂いたのだ。

 

ポートレートの題名はどんなものになるのだろうか。

 

救急外来に駆け込んだら

綺麗なパキスタン系の女医さんがいた

彼女のポートレートを描きたくなったので

電話番号をもらって、

後にその彼女を描いた