重ーいグレーの空気を。
彼女が汚染された湿気と一緒にこのキッチンに持ってきたのではないかと思うくらい。グレー。
光が少ないのは確か。 窓が小さいし。壁だらけで天井が低くて苦しい。
中国人の中年女性が住んでいる北ロンドンに位置するアパートに引越して数日。
正直自分がここに来てよかったかどうか、自分の決断に疑問を投げかける。
「選択を失敗したか?もしかしてぼくはロンドン留学生活を棒に振るのか?」
キッチンは油でギトギトしていた。触るとべたっとする。
ベターっと。
一番記憶にあるのはそこ。
あと彼女の不思議な行動。(それは後ほど話します)
バスルームの石鹸がハニーの匂いでいくら手を洗ってもべたつく。
彼女はべたつきたいのか。
彼女とハグなんかしたら体中がベタベタになるのだろうか。
このアパートの入り口をどうやっても思い出せない。どうやってあの家にたどり着けばいいのか。
僕はいつもそんな家に移り住む。
空間がゆがんだ世界に入り込みたいのだ。
KilburnちかくのDollisHillという駅だったのは確かだ。
とにかく、このアパートには玄関であるドアはあった。
ドアを開けると、すぐに階段が目の前に。
下駄箱もなかった記憶がある。
狭い階段で右も左も壁である。
そして暗い。
上にやっとのことで上がる。90度右にまがる踊り場が階段の最後にある。
そして廊下が現れる。狭い廊下だ。階段の上にある天井と廊下は同じ天井で吹き抜けなのでそこまで狭苦しい感じはしない。
でも廊下と言っても短い廊下だ。右は浴室兼洗面所。その手前が彼女の部屋。
階段の目の前は僕の部屋。
左に行くと小さなせまーいキッチンがある。
光はそのキッチンの奥の窓か、反対のバスルームからの光がやっと廊下に届く。
バスルームのドアが閉まっていたら光はほとんどない。明かりをつければいいけど、なんか暗い。
僕はとにかくホームステイから出たかったからここに逃げ込んできたんだ。
どの位住むかは決めてなかった。数週間すめれば良いとは思っていた。
彼女と契約することになったが、幸い月契約だった。