水に浮かぶこころ

英国在住アーティストが綴る不思議なドキュメンタリーストーリー

ロンドンのヤブ医者

彼は僕の唇に出来た腫瘍を見て。 

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Photographed by Satoshi Dáte Kilbrunにて

「これはなんだろうなー?」

と患者ではなく親戚の子供に話しかけるかのように首を傾げられた。

 「腫瘍の部分だけ取り除けばいいのか、根こそぎとらなきゃいけないかわからないな」

と本当にわからなそうに僕に伝えた。

 (大丈夫なのかこの人は?)

と僕はほんとうに不安に思う。 ただでさえロンドンに一人でいて不安なのにぞっとするような何かを感じた。

本来医者は患者を安心させる職業ではないのか? 最近は医者が傲慢になってきたのか?彼らはいつから自分も背負ってもいない、空虚から見つけた不安を僕らの患者に積み上げていいことになったのか?

 

まあわからないものはわからないのかもしれないけど。

他にも言い方があるような気がする。それかわからないなら黙っていて欲しい。

 

「腫瘍の種類などは専門医にみてもらったほうがよいですね、ご心配なさらず」

とでも言ってほしい。

 

結局プライベート(私営)の現地の医者に紹介状を彼らが書くこととなった。

 

この国にはNHS(ナショナル・ヘルス・サービス)とPirvate医療と二つがある。Privateは結局のところ、医者の技術の違いというより、すぐに診療、手術を受け入れられるというだけのちがいであった。

 

その違いにより莫大なお金がかかる。

 

イギリスの政府は世界にまれの完全無料医療国営サービスNHSを誇りに思っているようだけれど、問題がたくさんある。

 

それは無料なせいで、病気でもない人が病院に行くから、込み合って医者に会うことすらできないのだ。 これからの話を読んでくれれば察すると思うけれどの病気のために僕は長時間待つことになる。

 

日本の医療保険にはまだその時入っていたのだが、僕はこの医者を信用できなかったのとシステムを理解していなかったので逃げるようにすべてを断った。

 

その後、Kilburnに住んでいたときに登録したNHSのGP(かかりつけのお医者さん)にみてもらった。

そのGPはこの腫瘍がなんだかわかっているようだった。

 

普通の町医者がわかって、現地の日本人の医者がわからないのはどういうことだ?

ちなみに日本に帰って自分のかかりつけのお医者さんもその腫瘍のことをよくご存知でした。

 

その時知り合いになった、同じ小学校の同学年生のお母さんに電話ではなしをきいたら、なんとなくほっとする言葉をかけてくれた。

 

「現地にいる人のネットワークは日本のクリニックよりずっとあるわけだから、英語がわかるなら現地の病院に直接行ったほうがいいわよ。」

と、考えてみればその通りだ。逆を考えれば、ブルガリア人が日本に来て、ブルガリアの医者にかかるより、日本の巨大な医療ネットワークの中でみてもらったほうが、何か合ったときに病気も特定できるし、大事にいたらないだろう。

 

 

しかし殆どの留学生やワーキングホリデーの人達は『安心』するということで日本人のクリニックにかかりにいく。僕はあまりよい噂を聞いた事はない。

 

どちらにしても、日本のクリニックにいっても、結局は現地の専門医に紹介され、通訳をつけるかどうかしてくれるだけだから、この人達はただのエージェンシーに過ぎない。

 

イギリスのお医者さんにたどり着いてもまだ不安な僕。

GPに「ちょっと待っててね。」といわれて、彼女は後ろにあるドアをあけて、薄暗い部屋に向う。

遠くなのでよくみえなかったけれど、普通の家のようだ。

 

こちらのクリニックは歯医者もどこも、普通の家みたいな外見のクリニックが多い。中身も普通の家である。

 

ごそごそと別の部屋でなにか探している。

 

「いまここのGPが休暇中なのね、私は代わりにきてるの。だから器具が何処にあるかわからないわ、2週間後にまた来て。」とたんたんと言われた。

 

しょうがないから僕は2週間後に訪問することにした。

毎日毎日

「あと少し」 「あと少し」と願っていた。

 

ところが、その後予想もしていない事が起きた。