細くて美しくて、でも僕は彼女のすべてを...
韓国人女性のMi-jaに電話をして、待ち合わせの日と場所を決める。
気持ちがたかぶる。
僕は彼女の大学の玄関に行く。この時僕は携帯を日本でもかたくなに持たない様にしていたので、ボストンでももちろん持っていなかった。
待ち合わせは慎重に行わないといけない。
彼女はドアから現れ階段を降りてくる。
コンサートで会った印象とはすでにちがっていて、少し僕はがっかりした。
そんな僕が考えている事など気にせず(相手の考えている事はわからないと思うので)、彼女は好調に話し始める。
僕のルームメイトの話をしたけれど同じ大学のIoanaの事を訊いたけど。
「名前だけ知ってる」と言っていた。
Ioanaはかなりの腕。のようである。ヒロシさんからも聞いていたし、実家に帰ってヴィオラ奏者の僕の母に聴かせて驚いたほどだった。
Mi-jaがどれだけ弾けるかはわからないけど。僕の勘ではIoanaはとても優れた演奏者だと思った。
Mi-jaは僕のうちに来てくれた。と言っても僕の家ではないが。果たして僕はヒロシさんにちゃんと許可を得ていたか記憶にない。
そしてボストンなんて慣れない場所でいったいどうやって、彼女の大学まで行き、彼女をピックアップして、さらに家まで連れてきたのか? 全く記憶にない。
彼女が家に入り、ドアを閉めた場面も、そのあと僕がちゃんとお茶を用意したかも記憶にない。
だけれども、彼女が僕の前のソファに座り、落ち着いた表情で僕を見つめ、絵を描いてくれる事に酷く喜んでいたことははっきりと覚えている。
なによりも証拠がここにある絵だ。
面白いことに。
写真を撮っても人は記憶しない。
だけど絵やクロッキーを描いた時はその時の事をよーく覚えているのである。
その時の状況、集中、そして魂との会話が脳に焼き付けるのである。