その人はすぐ側にいた
一緒に住んでいる韓国人のDo-yunとは日ごろあまりしゃべらなかった。面白い冗談は時々言うけど、あまり言葉を交わさない。 彼の冷蔵庫に貼ってある写真を見るとすっごく痩せていた。 いまは見違えるように大きいけど、2年前ぐらいだろうか、ほっそりして不健康なくらいな印象があった。 エヴァと一緒に写っている。 面白いことにエヴァは逆にすごくふっくらしていた。
Ioanaは
「このころのEva、Eva自身好きじゃないみたいね。太ってたから」
と彼女は言った。
今のDo-yunとEva二人を見ると、彼女のお肉を彼にあげている感じがした。 でもあげすぎた感じがする。
ヒロシさんに聞いたところ、意外に意外、彼はボストンで一番のジャズピアニストらしい。それはもちろんヒロシさんが言うことだからわからないけれど、トップクラスなのは間違いない。
Gig(コンサートの事)がいつあるかきいてみたけど、なかなか時間が合わなかった。
もうちょっとゆったりした感じで、腰が重そうな感じがした。 能力のもてあましだろうか?練習をあまりしていない気もした。
ヒロシさんがいっていたかもしれない。
「彼は練習しないでもできちゃうから、練習しないんだよね。良くないことだ。勿体ない。」
と言っていた。
一度僕が公園で歌の練習をしていたのを見かけたみたいで、
「サトシはいつも公園で歌の練習をしている。 とても努力家だ。」
とルームメイトに言っていたことをあとで誰かに聞いた。 歌ってるのを見たのなら声をかけてくれればよかったのにと思ったけど。気を使ってくれていたのだろう。
そんなにピアノがうまい人から間接的にでもお褒めに預かるとは思いもよらなかった。
僕がある日朝歌の練習に公園に向かったとき、彼は早朝なのにどこからともなく現れ、
「歌の練習かい?」
と言ってきて。
「Yes」
といったら。
彼はグッドサインをしてくれた。
そしてまたどこかに消えていった。
謎のDo-yun。
彼は何を考えているのかちょっとよくわからない。 表むきの感じは良さそうなのだけど、なにか内に秘めている感じがした。
色々裏表あって、これもまた後で聞いたのだけれど、彼は家賃を一切払っていなくて、ただの居候らしい。 Evaだけが部屋の家賃を払ってるらしい。
さてそうは言ってる僕はタダで居候はできないのだ。 彼が家賃を払っていると勘違いしたのは、次のエピソードがあったからだ。
お金を払わないとさすがに悪いと思った。 ボストンへ来る前にヒロシさんを紹介してくれた先生に自分が思う分を払ったらいいと言われていた。 そこでEvaとDo-yunがるときに、いくらくらいヒロシさんにお金を払っておいた方が良いか訊いてみた。
そうしたらDo-yunが
「You don’t need to pay anything」
と言ってきたのだ。
ヒロシさんに僕が家賃を払おうとしたが、彼は受取ってくれなかった。 Do-yun達も払っているのにと言う話をしたら。
「Do-yunは一切払ってないよ」
と呆れたように言っていた。
てっきりあの感じでいったら払っているのかと思った。