ライブ演奏、日本人がいた

建物の中がうっすらと見えた。どうやら人が行き来しているので中に入ってよいようだった。
僕はときどきここにフラットやってくる。用もないのに。
それでヒッピーなかられは僕をちらりとみるのだ。部外者がやってきたことに警戒しているのか。
中がどうなっているのか非常に気になった。
うちの一番近くのヒッピー小屋に入ったことがあるが、意外と中は広くて、天井も高く、十分な広さのキッチンとリビング、創作のスタジオが備わってた。
けれどその家の2階にあがったことはなかったけれど、相当狭いベッドルームがあるようだ。
ロンドンから遠く離れれば、ベッドルームも、キッチンも、リビングも庭もすべて広々としているのに、人が集まるとこういう結果になるのだなと思った。
僕がイギリスに来たときは工場の中に(これらもそうだが、規模がもっと半端ではない)人が住み込んでいた(違法で)。そうでもしないと「アーティストもしくは風来坊」たちはロンドンで生きていけないのであろう。
中に入ったが、生活感のある空間と、展示をしているらしい、絵画が飾られていた。 いかにもアカデミックな勉強を一切していない作品ばかりが並んでいた。 彼らはいったいどんな思いでこういったアートを作っているのだろうか?

東京のギャラリストに僕のアートについてアドバイスをいただいた後だったので尚更不思議に思った。
ここに住んだら僕はどうなるのか?



洗濯機の上に100個以上ものトイレットペーパー?が積み重なってる部屋の隅をみつける。

僕は誰にも声をかけなかった。
マーケットも特におもしろいものもなく。彼らの子供たちが走り回って、わけのわからないオブジェがロの字の空間の真ん中にたたずんでいた。
先ほど弾いていた別の演奏者が演奏し始めた。
ふとみると奥にギターケースを地面に立てて、そのてっぺんに顎と手を載せてながめている男性がいた。
遠くから見た感じではヒスパニック系の人のように見えた。目は透き通っていて、ちょっと気になった。
どこかに行ったら誰かに声をかけなくてはいけないわけではない。
音楽もしっとりした感じになってきた。
「僕は彼に声をかえるべきだ」と感じた。
彼に近づいて
「次に演奏するの?」
と声をかけた。
そうするとクールな感じの彼は楽器に載せていたあごから顔を上げて
「いや、もう演奏は終わったんだよ」
という。
彼は遠くに住んでいるけど、リハーサルでここに来るらしい。どうやら練習スタジオがあるみたいだ。
「やすいから?メンバーが近くに住んでいるからかな?」
と聞くと。
「うん。そんなところさ」
と答える。
「僕はベーシストなんだ」と彼が持っている楽器がベースである事を明かす。
そこで僕は
「ベーシストなんだ、ベースをこの前日本で買ったよ」
というと
突然彼は驚いたように
「日本人ですか?」
と日本語で話してきた。
彼の日本語はかたことであったが、日本人との混血の様だ。
よく見ると彼は日本人っぽかった。
とおくからみると南米人の様な、インド人の様な、ユダヤ人の様なそんな雰囲気だった。
僕らは20分ほど、いやもっと長かったかもしれない。寒い中音楽を聴きながらお互いの事を話す。
僕らの前にはエレアコでしわがれた声で歌う大きな男がいる。
いい雰囲気の曲になった。
普段喋る声もしわがれているのかな?と不思議に思う。
寒いけど、むこうの焚火の熱気がこちらにくるような気がした。
僕はこのスナフキンのような目をした、静かな男性の横で、音楽を聴いた。
ラジオで聞く音楽はひどいものばかりだけど。 こういうところには魂を感じる音楽を歌う人がいるんだなと思った。
その時の曲。
https://recorder.google.com/13e7b2ae-5e9c-4bf6-9da3-9584c0f3ab6a
突然電気が遮断されて、マイクとギターが聴こえなくなった。
それでも彼は聴いている人の近くに行って、演奏が終わるまで歌い続けた。
「家はちかくだから、ここに来るときにお茶にでも来て」
と彼に伝える。
彼は
「ありがとう、音楽を僕に後で送ってね」
と言って僕らは別れを告げた。
彼は話の中で「日本に移住するかも」と言っていた。
不思議なものだ、彼はイギリスで育った。僕は日本で育ってイギリスに憧れてこの地にいる。
彼にとっては逆なのだ。
歩いていたらスナフキンにも会うものだなと。
日本ではいろんな地域を移動するけれど。イギリスはロンドンに籠りっきりの僕である。
すこしでも歩いたら、移動したら、こういう不思議な出会いがあるものだなと思った。