アナログカメラをバッグの中へ
WhiteChapel,切り裂きジャックが現われたというロンドンの地域に引越して数週間。
僕はある程度、この数ヶ月ロンドンでで痛い目にあったので、若い、少し年上の連中と過ごす事は苦ではなかった。
彼らと住むのは学生気分を味わいたかった事と、フラットメート(同居者)の韓国人ファッション写真家Choから写真の現像を習いたかったからだった。
彼は親切に現像の仕方を週一程度教えてくれた。
彼が最初に僕がいま住んでいる窓のない部屋に入るといって気が変わり、ぼくをその部屋に他の皆と一緒に無理やり押し込んだ。 いまChoが住んでいる別の部屋に暗室にちょうどいい物置部屋があったのを見つけたからだった。
その事実を知った僕は、少々頭にきたが、決めたことだったのでその気持ちは抑えて、写真の先生と生徒の関係を築き上げようと試みることにした。
「OK Satoshi, Listen carefully」
日本人の几帳面な人のような調子で始める。中肉中背のいっけんおとなしそうな彼はすこし厳しい調子でレッスンを始める。
暗闇の中ではなにも見えない。
彼は何も見えないところでも、パニックにならずにすべて把握しないといけないと僕に丁寧に教える。
写真の現像は真っ暗でなくてはいけない。
でも一旦現像が終われば、プリントは赤い光の中で出来るのだった。
換気扇もついてなかったので、ケミカルのにおいで少しくらくらした。
カラーでの現像はどうやら複雑なようなので、しょうがなく白黒を教わった。
それから自分で現像してプリントできることに興味が沸いて、沢山白黒写真を撮るようになった。
いまではアートクラスの生徒にはスケッチブックを持ち歩くことと促しているけれど。
アナログカメラもまた、スケッチブックと同じ効果がある。
そう、読者のみなさんも是非はじめて欲しい。
スケッチブックを持つことで、じぶんのアンテナが鋭くなる。そしてなにかを自分の中に吸収したい、捉えたいたいという思いがこみ上げてくる。
描いたものは自分にしかない視点でかき、自分の創造性がより豊かになっていき、自分の目が進化していく。
そして描き終えた絵は日記となって写真よりも鮮明にそのときのことを思い出すことができる。
僕は学生の頃毎日5枚以上描くことを自分で心がけて、100ページのスケッチブックが20冊くらいになった。
じつはこれは私たちの人生でとても重要なことで、 「真実」を見る目が養う。
真実を見る目とは、判断能力だ。
なにか二つの道にわかれているときに、どちらが「自分にとって真実か?」がわかるのだ。
こんなにすばらしいスキルはないと思う。
直感をより鋭くする、ともいえる。
僕は白黒写真を撮った事があまりなかったし、大きな印画紙にプリントした経験もなかったから、毎日が興奮した。
こういった興奮が窓のない、絶望的な空間で暮らしていても僕には最大の助けになった。