ツーンと鼻に刺さるような匂い。
手には円柱型の容器。
後ろには韓国人の男性の声。
まわりは真っ暗でなにもみえない。
もしかしたら僕は果てなく続く暗闇に取り残されているのかもしれない。
この後ろで指示をする韓国人と手に取る現像容器と一緒に永遠にこの状態でい続けなければいけないのかもしれない。
そんなちょっとした恐ろしさを味わいながら。はじめて「真っ暗」な現像質の中で彼の言われたとおりのことをした。
「ゆっくり8の字を描くように回転させて」
たんたんと韓国訛りの英語で話す後ろの丸い声。
「うん」
と僕はそれにこんな危険な無防備な状態で何も問題が起きないように祈りながら答える。
「何回回転させた?」
と男の声が30cm後ろから聞こえる。
僕は少しずつ現像と紙焼きがうまくなった。
その頃はまだアナログカメラも皆つかっていたので、写真用の印画紙もお店で沢山売っていた。
油絵を始めた時と同じに、新しい匂いというものはまた新しい世界を広げてくれるものだ。
またその匂いというものも最初はいやでも慣れてくると、興味深いに匂いと変化する。
そういえば、大好きな叔父のアトリエにも暗室があった。 長ぼそい部屋、叔父には入るなといわれていた部屋。その時かいだつーんとする匂いと一緒だった。
そういえばもう一回だけ過去に同じに追いかいだ。阿佐ヶ谷美術学院に見学に行ったときだ。美大に落ちたときは、専門学校にいくしかない。予備校の友達と一緒に見学に言った思い出がある。
とてもアットホームで予備校の延長な感じがした。こういうのんびりした、優しい人が沢山いそうなところでアートを勉強するのも悪くないなと思った。
匂いだけで昔のこの2つの思い出を思い起こさせてくれた、にーな(おじさんのこと)はどうしてるかな。と遠く離れたおじさんのことを思った。 彼は僕が海外で留学することにすごく羨ましく、そして応援してくれた。
彼は若いときに留学したかったからだ。
僕は彼の代わりにここに来ている。