現実と非現実の壁を行き来する
だてさとしだけど漢字が伊達賢なので「だてけーん!」と読んでくる若い先生がいた。彼はぼくをちゃかしていたけど、彼が僕の部屋に来るときは嬉しかった。
ある日彼から嬉しい言葉をもらった。
「ご飯はちゃんと食べてる?」
「おなかはいたくない?」
と聞かれて、
「うん」
と応えたら
「じゃあ点滴をとろう」
と言ってくれた。
僕はその意味を完璧には理解していなかったけど。とにかく嬉しかった。 邪魔だったし、いちいちはずしたり刺したり、下手な先生だと痛くてしょうがなかった。
ずっと同じ場所に点滴をしていると痛くなるからときどき場所をかえるからだ。 一度神経の近くに刺されたのか、ひどく痛むのですぐに位置をかえてくれたけど、それから数年間もそこがしびれるようになってしまった。
点滴を抜いたのだから、また指す事はないだろうとは思ったけど、ほとんど何も知らされていない僕にとっては永遠に具合が悪くなって、良くなっての繰り返しが続くような気もして恐かった。
周りの皆の中に何年も入院している人もいたから。
しばらくしてから僕は退院することになる。
外に出るときはとても気分が変だった。
外の空気も窓からしかもらえなかった。 同じ地面を歩いているけれど、外は不思議だった。地面はもっと重くて、木が僕の周りをぐるぐる回っているような木がした。
僕は小さかったので母親の自転車に乗って、我が家に帰ったと思う。
「さあ、帰るよー」
と彼女は言って自転車をこぎ始める。
とても非現実的な感覚が僕の体のまわりを覆っていた。
夢のような、死の世界に行くような。
病院の世界が現実で、僕は非現実の世界に飛び込んでしまう。
嬉しいようで悲しいようで不安のようで
くらーいくらーい雲がのしかかるようだった。
今まで生まれ育って家族や学校の友達がいたことが嘘で、今はまた嘘の世界に引きずり込まれるように。 母親はいったいどんな気持ちで僕を家に連れて帰ったのだろうか。
家に帰って兄と遊ぶ
自分が夢の世界にいるようで恐かった。
音という音がすべて閉じ込められたところから聞こえてくるよう
なんだか不安だった。
母親も父親もすべてうそのようにも見えた。
これが現実の世界なのだろうか?
僕は病院でずっとすごしたかったのだろうか?